憧れの猿ヶ馬場山・山スキー



  私が20年ほど前に買った国土地理院発行の20万分の1地勢図『金沢』には、この地図内で登りたい山が6座書き込まれています。
 人形山、願教寺山、法恩寺山、猿ヶ馬場山、三方崩山、大笠山。 去年大笠山に登りましたが、まだ登られていない山が数座残っています。そのひとつが猿ヶ馬場山なのです。

 白山東山麓に豪雪地帯の白川郷合掌村があります。その東側に位置する猿ヶ馬場山はそのなだらかな山容を白山から見て、是非山スキーでチャレンジしてみたい。そう思っていました。

「山太さん猿ヶ馬場へ行きましょか!。」

 まだスキーシーズンの始まっていない昨年の秋に、2FUさんから声を掛けられた。私がこの山に思いを寄せているのを、いつ頃2FUさんに言ったのか忘れてしまったが、彼はきっちり憶えてくれていました。

 佐野・2FUコンビはこの山行のために、着々とヤブ山スキーでトレーニングを積んできた。(ほんまかいな)
 その間、ノホホ〜ンとインターネットで遊んでいた山太は、その酬いでつらい山行となりました。
いやいや、もう歳なんだ〜。(^_^;

白川郷の林道で準備風景。さあこれから出発だ!。
【日 時】1997年4月10〜11日(木金)前夜発
【山 域】飛騨
【山 名】帰雲山(1,622m) 猿ヶ馬場山(1,875m)
【ルート】白川郷合掌村→帰雲山→猿ヶ馬場山  ピストン
【天 候】晴れ
【地 図】5万図「白川村」 2.5万図「平瀬」「鳩谷」
【Menber】佐野 誠さん 2FUさん 珍念さん 山太
 

「もうそろそろ藤井寺のインターに着きます。」
と、佐野さんから電話があったので慌てて家を飛び出す。
 最近は携帯のお陰で待ち合わせも便利になったもんだ。
 娘の車で送ってもらう、楽珍楽珍。娘が駐車場でバックするときにゴツンというお愛想もありましたが〜。(^_^;

 新しくなったランクル2FU号は、乗り心地と言い広さと言い快適。4人の冬山装備とスキー板がごっそり車内に積める。

 2FUさんからヨンマルとロクマルの違いのうんちくを聞くが、簡単に言うと・・・ワカラナイ。
 西名阪から東名阪そして少し迷ったが、東海北陸自動車道と高速を乗り継ぐ。高速は昨年の秋は美並だったが今回は郡上八幡まで伸びていた。
 予想通り御母衣ダムの手前で夜間通行止めにあってしまった。少し戻り道路脇の広場でテントを張る。もう3時だが懲りない面々は、つかの間の宴を楽しむ。

 さすが珍念さんは若い、我々の仲間と比較してだが〜、この時間でも食欲旺盛だ。
 2時間ほど寝ただろうか、テントの外が明るくなったので目が覚める。昨夜見た天の川を思い出すと、寝るのがもったいないので、「起きろ起きろ!」と皆を起こす。

 白川郷合掌村から林道を帰雲山の方に入るとすぐに残雪があった。ランクルでもチト手強い。
 路肩の方の雪をスコップで削り、片車輪だけ地道を走らせ強行突破。少し遊ばせてもらったが、100メートルも行かないうちにすっかり残雪に埋もれた林道にはこれ以上進入は出来ない。標高600メートル地点である。


ブナノ原生林の広い尾根。下りが楽しみだ。
 天気は最高だし雪も結構あるので、途中で一泊せず車まで帰ってくる計画を立てる。
 食料   1食分・行動食・非常食
 個人装備 一般冬山衣料・山スキー具一式・シュラフカバー
 共同装備 テントはフライ・ガスこんろ2つ・スコップ等 各自

 ラーメンなどで腹ごしらえをして8時に出発。珍念さんが犬のように何度も念入りにストレッチをする。
 少し雪の林道を歩くのだが、私は待ちきれずもう板を付けて歩く。おお!この感覚、一年ぶりだ。

 林道が大曲する手前にびっしり雪に埋もれた谷があった。ここから取り付こう。このころ私は元気元気でルンルルンルンと先に取り付いてしまう。一汗かいた頃、谷は終わり尾根に登りつめた。
 尾根には雪はなく、しばらく雪を拾いながら杉の植林を登ったが、とうとう板を担いで登らなければ駄目な状態。
 珍念さんはスキー靴だったので登山靴に履きかえる。尾根にはちゃんと道がある。山仕事の道だろう。
 やがてその道もなくなり、きついヤブに阻まれてしまった。こりゃ先が思いやられるわい。

 「あ!、囲炉裏のバンダナがない。」

 頭に付けていたバンダナがヤブで引っかけたのだろうか。佐野さんは悔しがる。気付かないなんて信じられないなあ〜、何てオデコに手をやり山太は思ふ。 (^_^;
 囲炉裏村バンダナ紛失第一号は佐野さんの手に!。と皆で祝福を上げる。

 ヤブを突き抜けると林道に登り着いた。ありゃりゃ?。この林道は私達が途中まで登ってきた林道だ。ヤブのお陰でかなり時間をロスしてしまった。
 猿ヶ馬場山の前衛峰になる帰雲山がでっかく見える。やっと帰雲山の麓にたどり着いた感じだ。時間は11時少し前。フ〜、遠い。

 再び板を付けて林道を歩く、北側に見える谷はどれもこれも滑り込めそうな谷だ。帰りに使えるかな?。
 林道を最終までつめて、小さな谷から尾根に乗っかるルートにテープがあった。佐野さんの抜群のルートフィッティングに拍手!。

 尾根に乗ったところで昼食にする。12時半か〜。猿ヶ馬場山までは800mほどの標高差がある。無理かな。
 途中敗退か、それとも雪洞を掘ってビバーグか。天気は良いのだが、冬型の気圧配置になってこの季節としてはかなり気温が低い。取りあえず登ろう。

帰雲山手前より猿ヶ馬場山を望む。
 広い尾根はブナの原生林で素晴らしい、積雪は2メートルは十分あるだろう。雪はしまっていてシールは良く効くし、板も全く潜らない。100%快適なフィールドだが、しんど〜い!。私だけが徐々に遅れがちになる。

 さすが、毎週山スキーをしている2FUさんは元気だ。今回初参加の珍念さんも体力有るわ〜、どんどん登っていく。ベテランの佐野さんはスーイスイ!。

 右に見える真っ白い白山の景色は素晴らしい。左に見える猿ヶ馬場山はまだまだ遠い。こりゃ猿ヶ馬場までは無理だわ〜。今の私の体力では〜。(^.^;;;  この時間では、帰雲山が3時頃、猿ヶ馬場山は5時頃になってしまう。

 今回の目標は、残念だが帰雲山迄と下方修正する事にした。それなら目標は近づいた、もう少しだがんばろう。 帰雲山への最後の斜面は、滑降には素晴らしい。「この肌はもったいないので、バージンのまま下りに残しておこう。」と2FUさんが言ったかは定かでないが、私にはそのように感じた。
 徐々に傾斜は緩やかになりもうすぐ帰雲山の頂上だが、平らになりながらまだまだ登っていく。遠い。遠い。遠いぞ〜。

 数歩歩いては立ち止まる。山は静かだ。心臓の音だけが聞こえる。ドキドキドキ。
 3時、到着!やった!。バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ。
 この帰雲山の頂上で計画を変更する事態が起こった。

帰雲山山頂。バックは猿ヶ馬場山。
「小屋がある〜!?」

 そんな情報は全くなかったのに、この帰雲山の頂上には小屋があった。
 3畳ほどの小さな2階建ての小屋だ。積雪があっても入れるように1階と2階にドアが付いている。鍵は掛けるようにはなっていない。
 見る限りは避難小屋なのだが、中にはテレビアンテナの中継器具らしきものがいっぱいある。
 1階は土間になっていて、マキとダルマストーブがある。煙突は取り付けてなくストーブは使った跡がない。
 2階は4人が寝られるスペースとして縦1.8メートル、横1.2メートル程が確保できる。ちょっと狭いが何とかなるだろう。

 さて、泊まって良いものだろうか。いや、もう泊まるつもりになっている。諦めていた猿ヶ馬場がよみがえってきた。
 鍵が掛かっていない事や、マキが用意されている事などを考えると、アンテナ中継の小屋でもあるが、避難用として登山者に開放しているのだろう。

 皆の食料を集める。明日の行動食を残し、おにぎりが4個と、真空パックのご飯が一つ、その他ウインナーソーセージ、カロリーメイトなど。 雑炊の素があるので今夜と明日朝はこれでしのげそう。
 4人で缶ビールを分け、ほんの一口だが抜群にうまい。乾杯!。アルコールは非常用に2FUさんが持ってきたウォッカが、200CC程あるのでこれで十分だろう。

 この小屋は壁はトタン張り、土間の下からは風が入り放題、天井も空気が抜けるようになっているのでかなり寒そう。
 夕暮れになるとかなり寒くなってきたので、ストーブに火を付けた。煙い煙い、まるでいぶり出しだ。
 こらえきれなくなって外に非難する。でもかなり暖かくなった。ちょうど白山の山並みに太陽が沈むところだ。“御帰光”って言うのだろうか。

 そうそう、囲炉裏第一号となる予定だったバンダナ紛失は、無事衣類の間から出てきました。次のチャンスをねらいましょう。

 持っている衣類を全部着て、シュラフカバーに入りその上にフライを被せる。頭と足を交互に寝るが、とにかく狭い。4人が上を向いて寝られない状態。閉所恐怖症になりそう。(^.^;;; ああ、今夜も寝不足だ〜。

 いつ寝たか分からないような感じで朝を迎える。取りあえず今日も良い天気のようだ。
 6時出発。一旦帰雲山を少し下り、本格的に猿ヶ馬場の登りになる。帰雲山から見ると結構きつそうに見えたが、近づいてみるとそうでもない。
猿ヶ馬場山への最後の登り。

 昨夜はかなり冷えたのだろう、雪はよく締まっていて板は全く潜らない。まるで舗装道路を歩いているようだ。
 いつしかブナ林から樅の林になり、高山の雰囲気になってきた。相変わらず白山が綺麗に見える。広い尾根には丹念にテープが付けてあるので安心安心。
 この素晴らしい斜面は下りが楽しみだ。

 三角点がある西の頂上からぐんと傾斜が緩やかになり、猿ヶ馬場山までは広い雪原だ。ガスに巻かれれば迷いそうなところだが、今日はその心配も無用。
 ここでもなかなか頂上を踏ませてくれない。あれが頂上だろうと近づいてみれば、その先にそれよりほんの少し高そうなところが見える。

 やった!。猿ヶ馬場山頂到着7時30分。一度諦めかけていただけに、ひときは嬉しい。
 天生峠から籾糠山というルートはUPダウンが多く、ここから見る籾糠山は魅力的な山には見えない。猿ヶ馬場までたどり着けなかったら、次回は天生峠から登ろうと思っていただけに、今回登頂できて本当に良かった。
 囲炉裏の旗を出して記念写真、パチリ。猿ヶ馬場山のプレートが有ったのがうれしい。

 雲が出てきて寒くなってきた。山口さんへ携帯電話で登頂報告をする。私はチトしんどそうな声をしていたようだ。
 シールをはずし、標高差1200メートルの大滑降の準備だ。私にとって一年ぶりのスキー。滑り方を忘れてるんじゃないだろうか。

やったぜ!。猿ヶ馬場山山頂。
 シールをはずすと、「スキーってこんなに滑るもんだったんだ!。」と今頃感心する。快調快調。
 皆の滑降は素晴らしい。木立の中をくぐり抜け、4人のシュループは右へ左へ。まるでマイルドセブンの宣伝のようだ。

 珍念さんはオカマ滑りだ、何て言っていたがそんなことはない。お主、出来る!。「雪面がガタガタや〜。」と言っていたが、かなりゲレンデでは滑り込んでいるのでしょう、上手に斜面をこなしている。
 もっとも今回は山スキーだ、と言ってもゲレンデのような斜面が延々と続くし、雪質だって春のゲレンデよりよっぽど良いかもしれない。

 佐野さんとは去年上谷山で一度一緒に滑っただけだ。その時は豪華な滑降を披露する広さがなかったが、今日見るとたいしたもんだ。

 2FUさんはさすが努力の賜。2年前毘沙門岳を滑ったとき、摺鉢斜面を何度も何度もターンして全然高度が下がらず、長いこと待たされたもんだが、その頃から比べると見違えるようにうまくなっている。もう山スキーのベテランと言わせていただこう。
 そんなことを言っている山太は、もうしんどくて、適当にサボりながら滑ってました。

 30分ほどで昨夜泊まった帰雲山へ戻る。このとき板を外して少し登り直ししたが、その後は延々とゲレンデのような斜面の滑降を繰り返す。 緩斜面あり、急斜面あり、林間コースの大滑降はもう飽きるほど滑らせてもらった。
 佐野さんはジャンプターンを繰り返すほど余裕綽々。皆ほとんど転倒することなく林道にたどり着く。

 林道から谷を滑る。この谷はヤブを漕いで登った尾根の北側の谷だ。まだまだ滑れる。
 この谷の滑降だけを取っても、「山スキーで、結構滑ってきました〜。」といえる程快適な斜面だ。雪が締まった急斜面でジャンプターンを繰り返す。2〜3回繰り返すと息が上がってしまう。ふ〜。疲れた。

 谷が狭まり、とうとう雪が切れた。沢の水がちょろちょろと流れる。標高670メートル程の地点でどうやらスキーも終わりになった。
 私たちは猿ヶ馬場の頂上から標高差1200メートルの大滑降を楽しんだ。「もうちょっと滑りたいなあ〜。」なんていつもの山スキーなら、物足りなさが残る物だが、今回は満足満足、大満足。

 だがまだ帰り着いたわけではない。これから沢下りが待っている。(^_^; 板をザックに取り付けて両ストックで沢の中をジャブジャブ歩く。靴が堅いので結構安心して沢の中に入れるし、泥壁もステップが効く。
 少しかわいそうだったのは珍念さんだ。スキー靴だったので靴底は結構滑ったんじゃないだろうか。
 靴を解放しているので、足首から水がジョウゴで受けているようにドバーっと入っている。「何でもあり、の山行なんですね。」珍念さんはマイッタマイッタ!と言った表情。「あんなに気持ちよく滑れたんだから、このくらいはお愛想や〜。」と訳のわからんような受け答えをする山太。

 心配していた滝もなく古い堰堤まで下ってきた。少し上に林道が見える。林道までの登はほんの少しだが、なかなか登れないバテバテの山太。
「山太さん、ワサビ葉がありますよ。採っていきますか〜。」
「しんどいからもうええ・・・。」
 この林道を10分ほど下り、車のテポ地点に着いた。11時。
 お疲れさまでした〜。いい山でした。また一つ私の“秀峰”として思い出に残る山でした。

 ご一緒していただいた佐野さん、2FUさん、珍念さんありがとうございました。
 そして長文を最後まで読んで頂いた皆様。ありがとうございました。m(_ _)m

            〇~~/\/\~~/\~~ 《囲炉裏村 村チョッ! Santa!》
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